
社会のさまざまな分野と深く関わる工学部・工学研究科
加賀有津子 | 工学研究科ビジネスエンジニアリング専攻教授、副工学研究科長
工学部は2026年に創始130周年を迎えます。創設以来、工学分野の基盤となる学科に加え、日本で初めてとなる学科をいくつも先駆けて設置するなど、独自の視点から将来性の高い分野を切り拓きながら発展してきました。
工学部における女子学生について、記録上で確認できる最初の卒業生は1956年3月卒業のお二人です。一人目は発酵工学科の喜田節子さんで、その後1967年に本学で博士号を取得されています。二人目は応用化学科の高橋高子さんで、日本紡績検査協会(後の大阪産業技術研究所)に就職されたことが確認されています。
工学分野における女性活躍の黎明期において、大阪大学工学部における全国的に注目すべき出来事として、全国初となる女性の工学博士、郷原佐和子さん(新姓:河本)が誕生したことが挙げられます。郷原さんは京都府立女子専門学校、立命館大学二部理工学部を経て、1954年に大阪大学大学院工学研究科へ進学しました。熊谷三郎研究室に所属し、「非線形共振回路に関する研究」により1959年に博士号を取得されています。さらに、大学院で出会い結婚した河本琢哉氏とともに、1967年にベンチャー企業「コモタ技研」を創業されました。
工学部初の女性教授は三宅千枝先生です。三宅先生は京都大学大学院理学研究科博士課程を修了し、1960年に京都大学より理学博士号を授与されています。同年、大阪大学工学部に着任しました。助教授時代からウラン錯体化学を専門とし、ウラン4価種の酸化状態に関する研究を進められました。1990年に教授へ昇任後は、「磁気化学」と「アクチニド化学」という二つの大きな研究テーマを掲げ、それらを軸として研究活動に取り組まれました。
工学部で二人目の女性教授となった筆者は、建築・都市計画に携わりたいという思いから、環境工学科(現:環境•エネルギー工学科)で学びました。当時、工学部における女子学生の割合は約1%という状況でした。1987年、学部4年生として進路を考える時期になると、特に技術職において、男性には多くの求人がある一方で、女性向けの求人はほとんどないという現実に直面しました。この時期は男女雇用機会均等法が施行された直後であり、都市計画分野における技術職は、公務員を除いてほとんど存在しない状況でした。 当時、筆者はコンピュータグラフィックス(以下CG)を活用した都市・建築計画研究で世界的に著名であった笹田剛史先生の研究室で学んでいました。その縁から、大学の研究成果であるCG技術を活用し、都市デザインや地域の合意形成を支援するベンチャー企業の設立に、研究室の先輩方とともに携わりました。その後1989年に阪急電鉄へ転職し、沿線再開発事業においてCG技術を用いた合意形成支援業務に従事しました。この時期は男女雇用機会均等法の施行を背景に、多くの企業で女性の技術職や総合職採用が進み、女性の働き方が大きく変化し始めた時代でもありました。阪急電鉄では「彩都」などの都市開発事業に携わり、周囲の支えのもと、男女の区別なく仕事に取り組むことができました。また、業務と並行して社会人ドクターとして笹田研究室で学ぶ機会を得て、当時普及し始めたインターネットを活用した都市計画の合意形成システムに関する研究により、1996年に博士(工学)を取得しました。その後は大学で学んだ技術を活かした計画コンサルティング事業を社内で立ち上げる業務に尽力し、ご縁があって2001年に環境工学専攻へ講師として着任しました。さらに2004年には、ビジネスがわかる技術者の育成を理念として新設されたビジネスエンジニアリング専攻へ移り、現在に至っています。
現在、筆者は都市・地域活性化やまちづくりに関する教育・研究に従事する一方で、工学研究科総務室の男女共同参画ワーキンググループ(WG)の活動にも参加しています。 このWGでは、女性研究者の卵である女子学生の割合を高めることを目的として、さまざまな活動を行っています。その一つが、毎年8月に開催される工学部オープンキャンパスにおける「女子高校生のためのオープンキャンパス」です。女子高校生向けの広報イベントとして、2007年から継続して実施しています。この企画では、工学部・工学研究科における女子学生の卒業後の進路について、学科・専攻ごとに整理して紹介するとともに、現役女子学生や教員との交流会を通じて、参加者が最新の情報に触れられる機会を提供しています。毎回100名を超える参加があり、大変好評を得ています。またWGでは、工学部・工学研究科に所属する女性教員、女性研究者、女子学生が学科や専攻、学年を超えて交流を深められるよう、「女性研究者とその卵たちの集い」も毎年開催しています。 こうした継続的な取り組みの成果もあり、工学部の女子学生数は2026年度には560名(全体の15.5%)となり、10年前の425名(全体の11.4%)と比較して着実に増加しています。
「工学」という分野は、真理を探究するだけではなく、その知識や技術を社会に還元し、人々の暮らしに貢献できることに大きな特徴があります。これは工学に課せられた最も重要な使命の一つといえます。社会のさまざまな分野と深く関わる工学の世界で、これからさらに多くの女性が活躍し、その力が今後の日本社会を力強く支えていくことを期待しています。
参考文献:黒田光太郎, 日本の工学教育への女性の参加-工学部の初期女子学生-,工学教育研究講演会講演論文集, 2022, p.100-101.









