全国ダイバーシティ・ネットワークダイバーシティ研究環境実現イニシアティブ(牽引型)

物理を追究して、IT業界へ。
新しい世界に飛び込み、挑戦を重ねる姿にせまる!

富士通株式会社/JGG EFITS
阪口 真衣さん

Profile
大阪府出身。2023年 大阪大学基礎工学部 電子物理科学科卒業。2025年 大阪大学大学院基礎工学研究科 物質創成専攻 物性物理工学領域 博士前期課程修了。物性物理の研究に取り組む。2025年に富士通株式会社に入社し、企業向けシステム構築に関わる部署に所属。
物理や工学を学ぶ人の就職先といえば、研究職やメーカーの技術職を思い浮かべる人も多いかもしれません。しかし実際には、IT企業やコンサルティングなど、さまざまな分野で活躍の幅が広がっています。大阪大学基礎工学部・大学院修士課程(編集註:博士前期課程。以下同じ)で物性物理を学んだ阪口真衣さんもその一人。現在は、富士通株式会社でシステム構築に携わっています。どんな学生時代を過ごし、どのように進路を選んできたのか、お話を伺いました。

身のまわりの現象を理解できるおもしろさから、物理の道へ。

―阪口さんが理系を選んだきっかけについて教えてください。

高校2年生のときに文理選択があり、そのタイミングで物理系に進もうと考えました。もともと、中学生の頃から数学が得意だったので、理系の進路を考えるようになったのは自然なことだったかもしれません。高校で物理を学び始めた頃は難しいなと思っていたんですが、身のまわりで起きている物理現象の原理を理解できるのはおもしろいなって。例えば、一番遠くまでボールを飛ばすための角度を計算で導き出すことができたり。それに、はじめは難しいと思っていても、勉強していくうちに全体像が少しずつ分かってくる感覚もおもしろいなと思いました。

―大阪大学を志望した理由は何だったのでしょうか。

進路希望では、大阪大学が第一志望。大阪出身なので、「大阪大学」の存在は身近に感じていました。数ある国公立大学のなかでも、阪大は「優秀な人が集う大学」というイメージがあり、憧れの大学でもあったんです。実際にオープンキャンパスで研究室を見学したときに、研究について話している学生や先生の姿がとてもかっこよく見えて、「自分もこういう研究をしてみたい」という憧れを抱いたのを覚えています。

―基礎工学部を選んだ理由は何でしたか。

物理系の進路としては、理学部や工学部などいくつか選択肢があります。その中で阪大の基礎工学部は、理学と工学の両方の要素を持っていて、入学後の学びの幅が広いと感じました。高校生の時点では、やりたい研究が明確に決まっていたわけではなかったので、幅広く学べる環境が良いと思い、基礎工学部を選びました。

―女子学生が少ない理系分野の環境に不安はありませんでしたか。

基礎工学部において、女子学生が少ないことは入学前から知っていました。実際、私の学年では女子の割合が100人中3人。最初は少し不安もありましたが、女子の人数が限られているからこそ、すぐ仲良くなりましたし、その後も学び進めていく中で、特に不都合を感じることはありませんでした。何よりも、大学で自分のやりたいことを考えたときに、やはり物理を学びたいという気持ちが強かったんです。環境よりも、興味を大切にしたいと思いました。

ひとりで向き合うだけでなく、みんなの力で成し遂げることの大切さ。

―どんな大学生活を過ごしていましたか。

入学前から、大学では何か新しいことに挑戦してみたいという気持ちがあり、自分に合いそうなサークルを探して参加しました。それが、学生オーケストラ。人生で初めてバイオリンを弾き始めたんです。もともと私自身、にぎやかなタイプというわけではなかったので、雰囲気の心地よさと、新しい挑戦のバランスを取れるのが、オーケストラでした。大学に入ってから新しい環境に飛び込んでみることも、学生生活の中での一つの挑戦だったと思います。

―大学ではどのような研究に取り組んでいましたか。

研究室に配属されたのは4年生のとき。「SPring-8(スプリングエイト)」という世界最大級の規模を誇る放射光施設で、物質の性質を調べる研究をしていました。具体的には、ネオジム化合物という物質に光を当てて、その反射光のエネルギーを分析することで電子状態を調べるという研究です。

―その研究分野に踏み込んだ理由は何でしょうか?

規模・技術ともに世界最高峰といわれる放射光施設で研究できる機会は、滅多にありません。これはチャンスだと思いました。放射光施設での実験は1週間単位で行うことが多く、24時間体制で続くこともあります。研究はチームで協力して進めており、12時間交代で実験にあたっていました。良い結果が出たときに、みんなで喜びを分かち合える瞬間は、とても楽しかったですね。

―研究を進める中で大変だったことはありますか。

電磁気学や量子力学の分野はイメージしづらい部分が多く、理解するのが難しいと感じることもありました。それに、研究は思い通りに進むことばかりではなく、うまくいかないことの方が多くて。

― それをどうやって乗り越えていったんでしょうか?

もともと、人に相談したり、頼ったりするのは得意ではなかったんです。それは進路を考えるときも同じでした。先生や家族に相談するというよりも、自分でじっくりと考えを深めることが多かったんです。でも、研究は一人では進められないことも多く、周りの人に頼ることの大切さを学びました。分からないことがあったときは、友人や先生に質問して、分からないままにしない。困ったときに、親身になってサポートしてくださる研究室の先生や先輩方の存在に、とても助けられました。実験においても、先輩方の当番は終わったのに、私たちに付き合ってくれたり、アドバイスをいただいたり。そうやって、いろんな人に支えてもらいながら、チームで研究を進め、成果に結びついたときの達成感は苦労を超えるものがあります。

分からないことや、知らない世界との出会いが、次の挑戦のきっかけに。

―大学院に進学された理由を教えてください。

学部生時代に、研究のおもしろさを実感していたことが大きな理由です。実験は思い通りにいかないことも多いのですが、その原因を考えて試行錯誤していく過程がとてもおもしろく、もう少し研究を続けてみたいと思いました。また、物理系の分野では修士課程まで進む人が多く、私自身、阪大に入学した当初から院進学を見据えていました。

―大学院時代に印象に残っている経験はありますか。

理工系大学院生を対象とした短期の留学プログラムに参加したことが、とても印象に残っています。もともと英語に自信があったわけではなく、会話も得意ではありませんでした。それでも、社会人になってから留学するのは難しいだろうと思い、「できない理由を探すよりも、とりあえずやってみよう」という気持ちで参加を決めました。

―留学先ではどんなことを体験しましたか?

アメリカのカリフォルニア大学で、1ヶ月間滞在していました。現地では英語で論文を読んだり、研究や実験を見学したり、最終的には自分の研究を英語で発表するなど、ただ英語を学ぶのではなく、英語での研究発信力を高める実践を積み重ねることができました。この経験が、帰国してからの学会発表でも活かされたと感じています。現地では、大学のサークルのような活動を探して参加するなど、現地学生と交流する機会をできるだけ見つけるようにしていました。そんな経験から、帰国後も、留学生との交流プログラムに参加するなど、新しいことに積極的に関わるようになりました。

一緒に留学したメンバーで、休日にオールド・サクラメントに遊びに行ったときの一枚。
留学の修了証書とともに、記念撮影。

―就職活動はいつから始まったのでしょうか?

企業インターンシップへの参加は、修士1年生の6月から。研究や実験、さらに私の場合は留学にも参加していたので、学業と就活の両立が大変でした。

―留学や研究と、就活の両立。忙しい日々の中で、どうやって就活を進めていたのでしょうか?工夫していたことはありますか?

そうですね、周りにも私と同じように、研究に励みながら就活を両立させている同級生がいたので、よく相談していました。エントリーシートの添削といった具体的な対策の相談や、お互いを励ましあったりも。友人の存在が、精神的な支えにもなっていたと思います。

―阪口さんが目指していた業界についても教えてもらえますか?

物理系の学生だと、メーカーの研究職に進む人が多いのですが、私はIT業界に興味があったんです。

―阪口さんの研究や専門性とは異なる分野ですよね。

そうですね。IT業界を志望した理由はいくつかあるのですが、一つは、幅広い仕事に携わりたいという想いがあったこと。メーカーや研究職だと、同じテーマに長く向き合い続けるイメージがあって、私の思い描く働き方とは少し違うかもしれないと思いました。二つ目に、これまでとは異なる環境に身をおいて働きたいという想い。IT業界では、より多様なバックグラウンドをもつ人が集まっているのではないかと考え、新しい世界に飛び込んでみたいと思いました。

―6年間向き合ってきた物理系から一転して、「IT」という新しい分野に飛び込むことへの躊躇はなかったのですか?

不安がなかったわけではありませんが、それ以上に、自分が成長し続けていける可能性のほうを重要視していましたね。就職した後に、仕事を任せてもらえるかどうか。裁量の大きさも、企業選びでの大きなポイントでした。

―今、お勤めされている会社との出会いは、どのようなものだったのでしょうか。

留学から帰国した修士1年生の夏に、インターンシップに参加したことがきっかけです。その後、阪大生向けのOBOG交流会に参加する機会もあり、実際に働いている社員の方の話を聞くことができました。社員の方々が楽しそうに仕事をされている様子が印象に残っていて、「この会社の雰囲気は自分に合っているかもしれない」と感じました。インターンや交流会を通して会社の雰囲気を知れたことが、入社の決め手になったと思います。

恐れず踏み出す一歩が、新しい成長につながる。

―現在のお仕事内容について教えてください。

企業向けのシステム構築に関わる部署に所属しています。例えば、社員さんが使う社内ポータルサイトのシステム開発。クライアント様の要望を聞き、それをもとに協力会社の方々と調整を重ねながら開発に結びつける仕事です。まだ1年目なので、先輩のサポートを受けながら、仕事を学んでいる段階。未経験の分野だけに学びも多く、日々成長を実感しています。

―阪大時代の学びや経験が、仕事に活きていると感じることはありますか。

研究では、うまくいかなかったときに「次はどうしたらいいか」を考える機会が多くありました。また、研究発表の際には、相手にどうすれば分かりやすく伝えられるかを考える必要もありました。そうした経験から身についた「自分で考える力」は、今の仕事にも活きていると感じます。仕事でタスクを任されたときに、どうすれば分かりやすい資料になるか、どう進めればいいかを、まずは自分で考えるようにしています。一方で、私ひとりで考えられること・できることには限界があると知ったのも、阪大時代に得た気づきのひとつ。まずは自分で考えを深めつつも、独りよがりになるのではなく、周りの人とコミュニケーションを取りながら、チームワークで仕事を進めていくことを大切にしています。

―大阪大学ダイバーシティ&インクルージョンセンターでは、阪大女子学生の『内に秘める強い意志』を”will”と呼んでいます。阪口さんのこれまでの選択を振り返って、”will”と言える信念は何ですか?

私は、「恐れずに挑戦してみること」を大事にしています。新しいことに挑戦するときは、最初はやっぱり怖いなと思うことも多いんです。でも、実際にやってみると、思っていたほど大変ではなかったと感じることも多くて。だからこそ、まずは行動に移してみることを大切にしています。こうした考え方は、大学に入ってからより強くなったように思います。例えば、院生のときに留学に挑戦したことも、そのひとつ。振り返ってみると、阪大にはいろんなことにチャレンジできる機会があって、その中で少しずつ「やってみよう」と思える積極性が育まれていったのかなと感じています。

―新しい環境にも臆することなく、チャレンジを重ねる前のめりな姿勢は、いろんな人の背中を押すエピソードになると思います。この記事を読んでいる読者の方へ、一歩を踏み出すためのアドバイスをお願いします。

「興味を持つ」って、言葉では簡単に言えるけど、実際には「興味を持つこと」そのものが、価値あることだと思うんですよね。自分が好きなことが分からないって思う人も、中にはいるかもしれません。だからこそ、ほんの小さな心の動きでもいいので、自分の中に芽生えた好奇心を大切にしてほしいと思います。私が、物理系や阪大に進んだのも、大それた目標があったわけではなく、ちょっとした憧れの気持ちが出発点。その興味を大切に、周りの人や環境のサポートを受けながら、突き進んでほしいですね。

高校時代、友人からもらったカエルちゃんと
推しのキーホルダー

高校時代、友人からもらったカエルのキーホルダーは、受験や留学など節目のたびに身につけてきた大切なお守りです。今も仕事用のカバンにつけて持ち歩いています。それと、好きな韓国アイドルグループ「BTOB」の推しメンバーのキーホルダーもお気に入り。受験期からファンで、今もライブに行くのが楽しみの一つです。

Contents