全国ダイバーシティ・ネットワークダイバーシティ研究環境実現イニシアティブ(牽引型)

医療政策に関わる。人々の口の健康を支えるために模索しながら描くキャリア

PwCコンサルティング合同会社
園田(旧姓:石川)明日香さん

Profile
2016年大阪大学歯学部歯学科卒業、2021年大阪大学歯学研究科口腔科学専攻博士課程修了、大阪大学超域イノベーション博士課程プログラム修了。博士(歯学)。専門は口腔保健。日系シンクタンクを経て、2024年より現職。医療政策に関わる調査研究を行っている。
歯学部の卒業後の進路といえば、歯科医師として病院やクリニックで働く姿を想像する人が多いでしょう。でも実際は、研究機関や民間企業、官公庁といった道もあります。大阪大学歯学部出身の園田(旧姓:石川)明日香さんは、博士課程を修了後、日系シンクタンクを経て、現在は外資系コンサルティング会社で働いています。どんな学生時代を過ごし、どうやってキャリア選択をしてきたのか、お話を伺いました。

人の健康に携わる仕事を志して、歯学部へ

―園田さんがどんなふうに進路やキャリアを選択してきたのか、お話を聞かせてください。大学進学のときは、どうやって学部を選びましたか?

高校生の頃は「女性として手に職をつけたい」という思いがあり、医歯薬系の資格を取得できる学部に進学しようと考えました。オープンキャンパスなどに参加していくうちに、人の健康に関わる仕事、特に「生活の質を高める」「よりよく生きる」といったことが自分の関心事だと思ったので、生活の質に直結する「食べる・話す・呼吸する」などの機能を持つ口の健康について学べる歯学部への進学を決めました。

―大阪大学を選んだのはどうしてですか?

自宅から通える国公立大学が大阪大学だったこと、研究や教育などあらゆる面でトップレベルの歯学部だと思ったことが、選んだ理由です。もう一つ、志望するきっかけになったのが、七大戦(全国七大学総合体育大会)の存在。北海道、東北、東京、名古屋、京都、大阪、九州の旧帝大7校が、約40競技で総合順位を争うスポーツ大会です。私は高校時代からスキー部に所属していたので、この七大戦の存在を知って「私も出てみたい!」と思いました。

―阪大に入って、実際に七大戦に出場したんですか?

はい。スキー部に入って、アルペンスキーとクロスカントリースキーという2つの競技で参加しました。それから、スキー部だけでなく体育会本部にも所属して七大戦の運営を中心に活動していました。体育会本部というのは、体育会系の部活をサポートする生徒会のような組織です。

―歯学部は必修科目が多くて忙しいと思いますが、さらにスキー部と体育会本部の活動もしていたんですね。

そうですね。歯学部は9時から17時まで必修科目がびっしり詰まっているので、部活動をするとしても歯学部生向けの部活を選ぶ人が多いです。私は他学部の人たちとも関わりを持ちたかったので、全学部生向けの部活にチャレンジしてみました。スキー部は他大学との合同合宿もあり、交流の機会が多くて楽しかったですね。

大学院に進学し、自分に合ったキャリアを模索

―学部卒業後、博士課程に進んだ理由を教えてください。

歯科医師になるには、大学を卒業して歯科医師国家試験に合格した後、1年間の臨床研修を受けることが必須となっています。私は大阪大学歯学部附属病院と宝塚市内のクリニックで臨床研修を受けました。診療を受けに来る患者さんのためになりたくて、診療前後に自主練に打ち込み、休日には勉強会に参加していました。少しずつできることも増えて充実感を覚えた一方、治療してもまた再発してしまう人を見て、そもそも病気を予防するためにはどうしたらいいんだろうと考えるように。そこで、予防歯科や公衆衛生についてより深く学びたいと思い、大学院に進学しました。

―何度も治療を繰り返すのは、患者さんにとって負担が大きいですよね。

そうなんです。やっぱり虫歯や歯周病を引き起こした原因を取り除かないと、治療と再発を繰り返すスパイラルから抜け出せません。そのために、病院やクリニックの中だけでなく、日常生活の中で発症前からサポートできることはないかと考え、予防歯科の研究室に入りました。

―大学院ではどんなテーマに取り組みましたか?

歯周病が発症するメカニズムに関する研究と、唾液を用いて体や口の健康状態を把握する方法の開発に取り組みました。口の中には数百種類の微生物が共生しており、微生物同士や口・体の環境との相互作用によって病原性が高まり、虫歯や歯周病などの口の病気につながります。私はどのように微生物や環境が関わり合い、歯周病発症につながるのか、代謝物質を網羅的に調べるメタボロミクスの手法を用いて研究しました。病気の作用機序を理解することは、病気を予防する上でとても重要です。また、唾液の中の代謝物質を調べることで体や口の病気を正確に把握できるよう、口に分泌されたばかりの唾液を採取する方法を開発する研究にも打ち込みました。実際に大学病院の被験者に協力してもらって臨床研究にも関わりました。

―大学院在学中に、超域イノベーション博士課程プログラムも履修したそうですね。

はい。日常生活における口の健康を守るためには、尖った専門性だけでなく社会の中で関わり合うさまざまな分野の人たちとの協働や診療室の外での活動も重要だと考え、履修することにしました。このプログラムは、社会課題を解決する博士人材を育成するための、大学院生向けプログラムです。最初はシステム思考やデザイン思考などを学ぶ授業を受けながら、他の専門を持つ博士課程の学生と共にケーススタディや産学連携プロジェクトに取り組みました。最終的には、それまでの学びや得た経験を活かし、自分でテーマを設定してキャリア設計に向けた自主実践活動を行いました。

―どんな活動に取り組んだんですか?

歯科・口腔保健専門職がこれからの日本の医療・保健課題にどのように関わっていけばいいのか、私自身のキャリアパスを探索したいと考えました。そこで、厚生労働省と県の政策研究センターでそれぞれ1ヶ月のインターンシップを行いました。また、海外の医療システムや現状との比較を行うために、スウェーデンで3週間のフィールドスタディも実施しました。この経験がなかったら、「会社で働く」という選択肢はなかったと思いますね。

―超域プログラムでの経験が、その後のキャリア選択にどう影響しましたか?

医療・介護においては、数年に1回行われる診療報酬改定や介護報酬改定など、行政の意思決定が日々の現場に大きな影響を及ぼします。そのため、国や自治体で政策形成に携わりたいと考えていました。でも、超域プログラムの活動を通じて、行政の構造ならではの障壁を理解していくなかで、行政の中だけではなく、コンサルティング会社など外から関わる道もあると知っていったんです。広い視野を持ってさまざまなプロジェクトにチャレンジしながら、行政の外からサポートしていく形が、自分には向いているんじゃないかと思いました。

今までの学びと経験を活かし、医療政策に携わる

―大学院修了後の進路について教えてください。

まずは学生時代に築いてきた自分の専門にとらわれずに、医療・介護業界におけるホットトピックに広く関わりたいと考え、日系のシンクタンクに就職し、政策の調査研究に携わりました。3年ほど働いて経験を積んだ後、自分の専門である口腔保健の分野によりフォーカスした仕事をしたいと思うようになり、現在の会社に転職しました。

―現在はどんな仕事をしていますか?

医療介護分野、特に口腔保健分野を中心に、政策の調査研究に携わっています。この分野には、医療費や介護費の増大、労働力の不足といった多くの課題があり、特に過疎地では深刻です。これらの課題をどう解決していくべきか、医療関係者へのアンケートやインタビューなどの調査を行い、解決策を検討しています。最終的に報告書を作成したり、報告会で説明したりしています。関係者の皆さんの認識を合わせるため、ディスカッションの場を設け解決に向けた道筋を見出すこともあります。

―仕事をする中で、学生時代の学びや経験が活かされていると感じますか?

はい、感じます。仕事でさまざまな人と関わりますが、相手の立場や背景によって「伝わる言葉」も異なるため、伝え方をその都度考えて調整しないと、なかなかお互いに理解し合うことはできません。深い専門性と幅広い知識・視野を兼ね備えた、いわゆるT型やH型人材と呼ばれるような力が必要です。スペシャリストだけでもジェネラリストだけでもない考え方や価値観を形成できたのは、学生時代の学びがあったからだと思います。

―超域プログラムで他分野の人たちと関わった経験が、T型・H型人材としての素養を育ててくれたのでしょうか。

そうですね。超域プログラムももちろんそうですし、博士課程で自分の専門性を築いたことも、どちらも今に結びついています。大学院時代は週2~3回診療も行っていたので、臨床現場で患者さんとコミュニケーションをたくさん取ってきた経験も、今の仕事で活かせていると感じます。

―臨床経験は仕事にどのように活かされていますか?

予防歯科の診療では、問診票に基づいた聞き取りだけでなく、患者さんとじっくり対話する機会が多くて。例えば、食いしばりがひどくて歯が割れてしまう人だったら、その原因となっている生活や仕事の状況についても詳しくお話を伺います。こうした臨床での経験は、現在の仕事でインタビューをして相手の考えや思いを引き出すときに役立っていると感じます。また、臨床現場で患者さんや医療従事者の方々と接する機会を持つのは臨床現場における課題を把握するためにとても大切だと思っているので、今の会社で働くようになってからも、週1回ほどクリニックでの診療を続けてきました。

対話を重ね、「自分らしさ」を見つけていく

―これまでの経験や興味関心を活かした仕事に就いている園田さんですが、進路・キャリア選択で悩んだことはありましたか?

もちろんありました。自分の道が定まったのは大学院に進んでからですね。学部生の頃は、最終的には歯科医師として働くだろうとは思いつつ、「このままでいいのかな」とモヤモヤした気持ちを抱えていました。歯科医師として臨床に携わるようになって、治療のスキルを磨き患者さんの悩みを解決できるようになることに日々の充実感は覚えたものの、周りにいる優秀で手先が器用な多くの歯科医師とつい比べてしまい、自分なりの歯科医師像がなかなか見出せなかったんです。

―モヤモヤしていた時期は、どんなふうに過ごしていたんですか?

歯学部の外にも目を向けてみようと思って。他学部の学生さんがどんなふうに考えてキャリア選択をするのか知りたくて、大学が主催するキャリアに関するイベントやリーダーシップ研修などに参加していました。数学に興味があったので、卒業単位にはならないのですが、理学部数学科のゼミに潜り込んでいた時期もありましたね。少しでも気になった活動には畑違いでも飛び込んでいました。

―ご自身の興味関心のもとで、積極的に行動してみたんですね。

一つの分野を深く学んで極めていくことも大切ですが、専門の軸を持ちながら視野を広げて俯瞰的に関わると、私自身の特性やオリジナリティを活かせるんじゃないかと考えるようになりました。そして、大学院時代の学びや経験を経て、自分らしいキャリアを選択できたのかなと思います。

―自分の特性を理解してキャリアを選択することは、シンプルなようで難しいと感じる人が多いかもしれません。園田さんはどうやって「自分らしさ」を見つけたのでしょうか。

まずは、いろんな分野の人と話をして、「君はこういう人なんだね」「君はこんなふうに考えているんだね」と客観的に評価してもらう機会を作ること。いろんな人からもらった言葉を蓄積し整理することで、自分が外側からどのように見られているのか、それを踏まえて自分はどのように考えるのか、「自分らしさ」とはどのようなものなのか、少しずつ理解していきました。でも、あくまでも今の自分が思い描いている「自分らしさ」なので、それが果たして正しいのか今は正直わからないですね。

―「自分らしさ」がわからなくて悩んでいる人が周りにいたら、どんな言葉をかけたいですか?

「自分らしさ」はどんどん変わっていってもいいし、そのときに自分が感じることに素直になればいいのかなと思います。いろんな関心を持ちながら、少しでも自分のアンテナに引っかかったことがあれば突き詰めてみることで、今まで知らなかった自分を発見できることがあります。他の人の選択を気にするよりも、自分がどう思うか、どう考えるかを大切にしてもらいたいですね。

―大阪大学ダイバーシティ&インクルージョンセンターでは、阪大女子学生の「内に秘める強い意志」を”will”と呼んでいます。園田さんのこれまでの選択を振り返って、”will”と言える信念は何ですか?

自分なりに考えられるところまで考え抜いた上で、選んだ道に進んでみること。自分の選択を行動に移してみるとその選択に自信が持てるし、もし失敗しても、経験を糧にして次に進めると思います。もちろん、私一人だけで考えて選択してきたわけではなく、大学の先生や友達などたくさんの人の助けがあったからこそ、今の自分があります。周囲からいただいた助言や、対話を通して自分の考えを深める経験が、自分らしい道を選択する上で大切だったと思います。

―最後に、ご自身の今後についてお聞かせください。

昨年、第一子を出産しました。今までは、会社の仕事とクリニックでの臨床とのバランス、土日や平日夜の勉強時間の確保など、「ワークワークバランス」を中心に考えていましたが、今後はワークライフバランスもうまく取っていけたらと思っています。「小さい子どもがいるから」と環境のせいにせず、今の自分だからこそできることにチャレンジしていきたいです。

子どもと一緒に過ごすリラックスタイム
リビングでほっと一息、一人だけのひととき

子どもと一緒に過ごすリラックスタイムを大事にしています。近所の公園に出かけて、芝生に座ってコーヒーを飲みながらのんびり過ごす時間が特に気に入っています。
自宅では、子どもが寝ている間に、リビングでお香を焚いたりお花を愛でたりしてホッとひと息つくのが、お気に入りのひとときです。
家族との時間も一人の時間も大切にしながら、プライベートから得られるものを仕事にも活かしていけたらと思っています。

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